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2008年06月05日

強力(GOURIKI)と白馬

強力(GOURIKI)と白馬


GOURIKI is a specialist of mountain guide and mountain carrier in Japan. GOURIKI is work to shoulder the load and to climb the mountain. GOURIKI that remained in the history of a climbing mountain of Japan carried two stones of 180kg up to Mt. Shirouma.

前回のBackpack painの記事から連想しました。強力・・・と記して“ごうりき”と読みます。

普段あまりなじみのない言葉かもしれませんが山ではごく普通に使われる言葉で、山岳ガイド的な要素を持ちつつ、人力による荷揚げを専門職とする人のことです。登山黎明期にみられた、たとえば料理人や身の回りの世話人はじめお風呂などまで一切合財を荷揚げさせて登った貴族的登山の時代などはもちろん、山岳地帯の工事や昭和初期に建設された富士山観測所の建設では、全ての建築資材を担いで荷上げするのに活躍しています。

多くの方が知る強力の偉業に、白馬山頂の風景指示板があります。これは花崗岩で作られた大きく頑丈な岩の塊ですが、これは強力の“小宮山正(旧姓:勝又正)”によって担ぎ上げられたものです。彼は、台座含めて360キロもある指示板を二つの部分に分けて、187キロの花崗岩を2個、白馬に担ぎ上げたのです・・・

強力(GOURIKI)と白馬当初、山頂に指示板設置の計画が持ち上がったとき、地元信州には180キロの石を運びあげる仕事に名乗りを上げるものはいませんでした。そこで白羽の矢が立ったのが富士山の強力の中でも最も担ぎ上げる力を持つことで有名だった小宮山でした。白馬のルートをまったく知らない小宮山に対して信州の強力がサポート。

187キロという荷は、一度担いだら最後、山頂に到着するまで下ろして休むことなどできず、立ったままの休憩を強いられます。山岳部の訓練で一個30キロの石を背負子に二個結びつけて山を登る、ということをよくやらされましたが、最初の難関が背負子を背負って立つことの難しさを実感します。人間であれば立っているところにおぶさってもらえば済みますが、背負子は地べたに置いてあります。まず自分が地べたにぺたりと座って背負子に腕を通します。次にその状態で上体を前に傾けて背に荷の加重を受けてからふんばって立ち上がります。これ、最初はものすごく苦しいんです。

登山では様々な隠語があります。男のキジ打ち、女の花つみ。そしてそろそろ疲れたので休もうというのは”そろそろ一本とろう”などと言うように使います。この一本ですが、当初は一服のことかな、と思っていましたが、どうやら重たい背負子に何十キロもの荷を担ぐ強力の言葉のようで、荷を降ろして座れないため、背負子の下に棒を一本立てて加重を軽くして立ったまま休憩することだと誰かに教えられました。背負子の下に棒を一本立てる・・・これが転じて山の休憩は「一本」。

たった60キロで、この苦しさですから、187キロなんていったら・・・もう想像を絶します。少しでも上体のバランスを崩したら転倒し命を落とすことも考えられます。こんなのを背負って、沢や雪渓、岩尾根を登って山頂に向かうのですから、その辛さはいかばかりか。

強力・小宮山の偉業を小説にしたのが、かの小宮山と知った仲であった新田次郎強力伝です。新田次郎は富士山観測所に勤務していたため、知り合いだったのでしょう。

僕は高校時代にこれを読んで、そのあまりの壮絶さに読了して数ヶ月の間、脳裏を離れませんでした。この小説は、今でも背負子を背負う瞬間の小宮山の記述を思い起こすたびに、心臓がばくばくと破裂しそうになり、頭に血がのぼってしまいます。それほどものすごい小説でした。もうひとつすさまじい本といえば、“風雪のビバーク”です。これは実際に槍ヶ岳の北に延びる北鎌尾根の冬季登攀で遭難した松濤 明が死に直面しながらつづった手記です。読むたびに涙があふれます。

さて、強力の小宮山は、187キロの花崗岩を担ぎ上げた二年後に死亡。原因は、白馬の風景指示板の強力だったと僕は思っています。近年の強力といえば富士山で殉職した長田輝雄。かれは観測所のためにあらゆる荷揚げを担っていましたが、富士山特有の突風で飛ばされ岩に頭部を強打して亡くなりました。富士山の突風は本当に恐ろしくて、冬季訓練で登る際、突風には気をつけるようにしています。アイゼンとピッケルを駆使した耐風姿勢というものがありますが、それでも呼吸すらできないほどのものすごい突風が襲い掛かります。後に長田輝雄が死亡した場所から長田尾根と呼ばれる道が作られました。山で人の名前が付けられている場所は、このようにいわく付きの場所が多いものです。

現在の強力といえば、やはり草野さんでしょうか。彼は鍋割山荘の主人で、小屋を建設する際に、小屋の柱など全てを人力で担ぎ上げています。草野さんは今でも、平均80キロを強力していて、なんと彼の最高記録は119キロ。すごいですね。
最後に、白馬は“しろうま”と呼びます。昭和初期に観光目当てで“はくば”などと、まるで白馬の王子様のようなイメージ作りが行われたため、世間一般には“はくば”で通ってしまっていますが、登山者の間では今でも“しろうま”です。残雪の頃、代(しろ)かき馬の白い姿が山腹に現れ、これを田の代(しろ)かきの目安にしていたため、ずっと“しろうま”と呼ばれ親しまれてきた白馬。

これに危惧した昭和初期の博物学者“矢沢米三郎”は山の名は営利目的で変えられるべきではない、正しい名前を残そうと考え、植物にひそかに“しろうま”の名を残し続けました。白馬への愛情から名付けられた植物は、シロウマリンドウ、シロウマウスユキソウ、シロウマタンポポ、シロウマスゲ、シロウマアカバナ・・・など無数に探し出すことができます。

白馬の山頂で何気なく眺めている風景指示板に秘められた壮絶な物語、そして白馬と書いて何と読むか・・・アウトドア好きの試金石かもしれません。


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GW後半過ぎの唐松・五竜岳【† ClubNature †】at 2008年06月06日 01:01
この記事へのコメント
先日夜叉神のテント場で読んだ文庫本がまさにこの強力伝でした!壮絶なお話ですよね。この方は金時山の金時娘さんのお父さんだとか。
いつかその方向指示板を見に行ってみたいです!

草野さん先日夕方のニュースで丹沢のヤマビルハンターとして紹介されてました。この時期は鍋割への登山道のヒルを地道に一匹ずつつまんで駆除されているそうです。
Posted by kimatsu at 2008年06月05日 12:32
知ってます。
シロウマ、ですよね。登山する人はみんなシロウマって知ってると思います。あの山頂の石の案内テーブルは知りませんでした。

そんなすごい話が秘められていたんですね。
Posted by fumi at 2008年06月05日 17:10
世の中には凄い人達が居るのですね~
知りませんでした、ビックリしました・・
”新田次郎の強力伝””風雪のビバーク”いつか読んでみます。
Posted by チャイ at 2008年06月05日 18:29
う〜ん、凄い、凄過ぎる!
強力の方達は荷揚げをしている間何を思い山を登ったのだろう。読んでみたく成りました。

それに比べて僕は...努力と根性なんて言葉は知らない...
Posted by ノブ at 2008年06月05日 20:14
★ kimatsuさん★
北岳を眺めながら強力伝・・・渋すぎますね(^^ 草野さん、ヤマビルハンターなんてやられているのですか?!一匹一匹・・・気の遠くなるような作業ですね。ヤマビルは一度吸血すると数年は生きられる、と聞いたことがありますが・・・怖いです
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年06月05日 20:59
★fumiさん★
つい先日「先週ハクバに登ってきましたよ~」って報告されました(笑) 本当の山の名前「シロウマ」は、いつまで残るのか・・・矢沢先生の功績が将来、評価される日が来そうな気もします(^^;;
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年06月05日 21:02
★チャイ さん★
ほんとうに、新田次朗の強力伝、おすすめです。小宮山さんの辛さを思えば、なんでも耐えられる気になります(^^;
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年06月05日 21:03
★ノブ さん★
彼らに見えている世界は足元の三十センチ四方・・・たぶん、一歩先のことしか考えていなかったと思います・・・これは僕がたかだか60キロ程度のボッカ訓練山行で、そうでした(^^;;;
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年06月05日 21:05
昔、ビリヤード台の石板を担いで螺旋階段を登ったことを思い出しました(^^;)

今は40リットルのザックでさえ拒否してしまうほど非力になっちゃってます(笑)
Posted by ジープ乗り at 2008年06月05日 22:25
新田さんの山岳小説、いまでも売れているらしいですな かくいう小生はまだ読んだことないですが 興味をそそられました 白馬の山頂の風景の案内板ですが 以前登った際には手でぺんぺんしたり ものすごく反省しとります この話を知っておりましたら あんなこと絶対にしなかったのに 座って記念撮影しとるやからもおりましたぞ この強力が命をかけてかつぎあげたこと 知らんのでしょうなぁ それでは、仕事、行ってきます。
Posted by 風 at 2008年06月06日 00:35
ものすごい豪快な話ですね。
自分は高校のころスクワットで210キロ挙げたことがあります。しかし、そのまま歩くのは1歩たりとも無理です。
人間業とは思えないですね。
Posted by ダミアン at 2008年06月06日 05:10
★風さん★
風景指示板ですからね。仕方ないですよね。こうした話は抜きで、純粋にすごい小説です♪
Posted by ユウ_zetterlundユウ_zetterlund at 2008年06月06日 15:07
★ダミアンさん★
210キロ!?
それは、豪快ですね!
ダミアンさん、筋肉もりもりですね?!
Posted by ユウ_zetterlundユウ_zetterlund at 2008年06月06日 15:08
★ジープ乗り さん★
ビリヤードの?!
あの台の石の板って、とても重そうですよね。それにあのサイズ・・・どうやって運んだのかが気になります。ジープ乗り さんて、強力できるかもしれないですね♪
Posted by ユウ_zetterlundユウ_zetterlund at 2008年06月06日 15:24
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