寒冷前線通過時に出会った、お隣のビバークな人
世の中には変わった人もいるものです。これは西穂山荘のテント場で出会った変わり者の話。
西穂高岳の山荘に到着してみれば、テント場はすでに満杯状態。そんな中、テントひと張り可能な隙間を探していると、山荘横に三畳ほどのスペースを発見。
僕はそこにザックを置いて場所確保をし、テント場使用手続きのため山荘に。そしてザックの場所に戻ってみると・・・
ザックの横に、ひとりの男性がニヤニヤして座ってます。
僕がテントを設営すると、横には
畳一畳ほどのスペースしか空きません。まさかそんな場所にテントを張れるでなし・・・じっと座っている彼は、テントを設営する僕を、ただニヤニヤ眺めているだけ。
なんだか気味悪いなぁ・・・と思った僕は「
ここにテントを張りますか?」と聞いてみた。すると彼は「
いえいえ、私はここに寝るだけですよ。気にしないでください」と何やら意味深な余裕の微笑み。
何を考えてるのかわからない謎のスマイル・・・やはり気味悪い・・・
設営したテントに入った僕はさっそく夕食の準備。準備とはいってもフリーズドライの親子丼です。時刻はすでに午後4時。多くのテントではそろそろ就寝する時刻。
僕はテントの中から、すぐ隣の気配に注意を向けた。食事をしていると思われる紙袋の音に続いて、ガサゴソという物音がひとしきり。それきりピタリと音はしなくなった。
“あれ?居なくなったのかな?”
そう思った僕はテントから顔をそーっと出して横を見てみた。なんと彼はシュラフに
シュラフカバーを装着して、すでに寝ていた。“ただ寝るだけ”とは、こういうことだったのか、とわかった。しかし、実に気持ち悪い。
真横40センチほどのところに常にニヤニヤ顔の男が、イモムシのように寝転がっているのだ。
今は曇天でも、確実に
寒冷前線が接近してきている。ということは・・・
僕のその予想は当たった。まあ、僕でなくても、誰だって予測できる。寒冷前線通過によって天候は大荒れになる。3000メートル近い稜線の風雨はものすごいし、おまけに気温が急激に低下するから、
8月の真夏でも場合によっては霜柱が立つ。
夜の7時ころから天候は急激に荒れ出し、やがて暴風雨となった。
バケツをぶちまけたようなものすごい雨が強烈な風によって真横からテントにぶつかる。音は暴風雨に掻き消されてはいるが、あちこちから漏れるヘッドライトの明りによって、周囲では張り綱補強やフライの点検にテントを出て作業しているのがわかった。
僕は、隣で寝ている“にやけた”
イモムシな彼は張り綱がなくていいな”と皮肉を想像し噴き出してしまった(笑)
翌朝3時頃。周囲のバーナーの音に慌てて目を覚ますと、すでに雨は止んでいる様子。そしていちばん気になっていた事を確認するために、そーっとシュラフを抜け出してテントから顔を出し横を見た・・・あれ??
隣でビバークしていたイモムシマンの姿がどこにも見当たらないではないか。
僕は、夜半に獣がテントの外を徘徊する微細な物音でも目を覚ますことが多いのだけれど・・・そんな物音は聞こえなかった。とすると・・・彼がこの場を退避したのは寒冷前線が通過している暴風雨の真っ最中しかありえない。
青暗い砂地は霜で真っ白。それのどこにも、人の寝ていた形跡は見当たらないから、やはり夜中に、小屋にでも泣きべそかきながら
逃げ込んだのかもしれない(^^;;
とすれば、今頃は、小屋の廊下の隅にでも身体を丸めてイビキをかいているのだろう。僕は、そんなことを思いつつ、西穂山頂経由、ジャンダルム方面に向けて出発した。
今回の台風4号は、直撃コースをそれてしまいましたが、この寒冷前線の通過も台風なみか、それ以上のものすごさ。きっと、このときHEX3を装備していたら、楽しかったかもしれないなぁ。
キャンプに、山に、バックパッキングに・・・本体800グラムほどの超軽量テントがあったら、もしかしたらお隣のニヤニヤな彼を誘い入れていたかもしれないです(笑) ニヤニヤしないことが条件ですけれど....(^^;
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◆7月15日の青野原キャンプ場前の道志川
吊橋と水面の距離も接近
サイト横の草地はすでに濁流の中
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