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2007年08月18日

江戸の博物誌にも収録された奇怪なる昆虫植物

江戸の博物誌にも収録された奇怪なる昆虫植物


自然の力こそ、かくも深遠なりき・・・ああ母なる自然力よ・・・なんていうのを表現する言葉にMother Natureなるものがありますけれど、探れば探るほど実に摩訶不思議な事象に遭遇します。

これら自然力のなせる業が突拍子なければないほど奇異にも思え、人は納得しようと務めるゆえに記号化が行われます。人の性として、正体の知れぬものをそのままにしておけないようで、そこから生み出されるのが妖怪やら神業といったもの。

雷などというものも想像力逞しく推測すれば元々は神が鳴る「カミナリ」だったのだろうと想像できます。その音に後に漢字が当てはめられたのでしょう。漢字は昭和初期頃までは音として当てられることも多く、文豪の小説でさえ、原文では“さんま(秋刀魚)”に“三馬”なる漢字が当てられたりと、実に自由闊達・・・
以前の記事・・・たしか怪談CLUBだったかで人魂の話をアップしたことがありますが、これは御嶽山のある場所で夜中になれば大抵は遭遇することができますし、また狐火なる現象もいろいろと探りを入れた結果、これが原因ではないか、というものをいくつか突き止めることができました。

がしかし、これが江戸の世であれば、事例が少ない上に化学の原理も一般には行き渡らず、そのうえ日本史上もっとも陰陽師や祈祷師が多かった時代。ために様々な事象は村専属の修験者などが解釈し法力の餌としてしまうことも多かったと推測されます。ゆえに、正体はより摩訶不思議で奇奇怪怪なるものへと変貌せられることになってしまう・・・

もともと知識欲旺盛な日本人。こうした不可解なる事象を想像力を駆使して記号化したのが鳥山石燕の著した「今昔画図続百鬼」「画図百器徒然袋」「今昔百鬼拾遺」という画図百鬼夜行三部作であり、また江戸当時の狐狸妖怪譚などを根岸鎮衛が丹念に収集しまとめた「耳袋」など。

これらと同時に自然力をありのままに記そうと努力されたのが「本草集」。昆虫から魚類動植物、鉱物まで実に繊細で美しい筆致で表現された博物誌です。これの大元になっているのは、お隣中国の李時珍が著した「本草綱目」。

江戸の博物誌にも収録された奇怪なる昆虫植物


上は服部雪斎が著した本草集。ものすごく絵が素敵です。和紙に水彩で、こんな絵をスケッチしたいな、なんて思ってしまいます。上手に描くのではなく、描きたいように表現できればいいんですよね。でも・・・なかなか、そううまく行かないんですよね・・・

これが科学的であるか、といわれれば、まだまだ迷妄迷信が大手を振って闊歩していた時代ゆえ、多分に耳袋や百鬼夜行的な要素も混じりあっています。

その代表的なものが、この記事のタイトルにあるような“奇怪なる昆虫植物”。昆虫であって昆虫でない。植物であって植物でもない・・・じつに奇妙な存在があります。厳密には植物ではなく菌類なんですけれど。

これの名称は“冬虫夏草(とうちゅうかそう)”。

冬眠する冬は虫で、夏になると草になる、というものです。これになんとなく似た存在が西欧にもあって、それは虫ではなく塊根が小さな人間の形で、草を引き抜くとものすごい悲鳴を上げるというマンドラゴラという植物。引き抜く際の悲鳴を聞いた人は死んでしまうと伝わります。

江戸の博物誌にも収録された奇怪なる昆虫植物


またドイツでは絞首台の小人なる“Galgenmännlein(ガルゲンメンライン)”などという恐ろしい伝説があって、それは無実の者が絞首刑に処せられた際に尿や精液を地に垂らすと、その場所よりマンドラゴラ同様のものが生えるとされていました。

これなども近代まで半ば本気でそういい伝わっていたのですから、魔女裁判などと相まって、近代文明は自分たちから生み出されたなどと胸を張る西欧諸国のほうが日本よりもよっぽど迷信に毒されていたようです。

さてマンドラゴラやガルゲンメンラインなどは伝説ですが、冬虫夏草は迷信ではなく実在します。実際に僕はこれを採取したことがあります。

これの正体は地中の虫に菌類の胞子が附着し虫の体内に侵入。発芽し菌糸を虫の体内に伸ばしつつ虫の体液を養分に成長します。やがて虫は死んでしまい、春を過ぎると菌の子実体が地表に頭を出します。地中の虫は姿こそ虫ですが、体内はすでに菌になってしまっています。

こうした菌類の研究で知られるのは南方熊楠ですが、アバウトに言えばキノコの一種。

セミタケと呼ばれるキノコがありますが、これなども蝉の幼虫に菌が寄生し乗っ取った一種の冬虫夏草です。同様に寄生する対象昆虫の種類によって名称も変化し、たとえばハチタケとかカメムシタケなどと呼ばれています。

これらは漢方の貴重な材料になりますが、最近の研究で冬虫夏草にはメラトニンという物質が大量に含まれているという報告もあります。

江戸の博物誌にも収録された奇怪なる昆虫植物


メラトニンはご存知のように奇跡のホルモンなどと言われていて抗酸化作用や免疫力亢進作用、内分泌器官調整作用などの効力を有しガンはじめ痴呆症、糖尿病、心臓病、更年期障害、前立線肥大 、白内障、緑内障など成人病など実に多くの病状に効果あり・・・

まさに奇跡の薬ということでしょうね。

妖怪植物などともされていた冬虫夏草。しかし現在では奇跡の薬として多大なる効能を秘めている神のキノコ。まさにNature is the best physicianなる言葉もあるほどに、自然は最高の医者ということなのでしょう。

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この記事へのコメント
キターーーーー! これこれ こういうのが読みたかったんです 昔の神秘学的なブログの余韻がにじみ出ていて いいっすねえ! キャンプで冬虫夏草を探そう、なんていうツアーなんて?
Posted by fumi at 2007年08月19日 00:07
昔のブログ・・・ではなくて、向こうは向こうで残してありますよ(^^;; 記事を完結させずに放置していますが、また興が乗れば、すぐにでも続きをアップします♪
冬虫夏草は、小さなドラムスティックが地中から顔を出すようにして伸びてます。どこででも出会えるはずです(^^
Posted by ユウ at 2007年08月19日 16:12
もしも、、、、
何も知らないでセミの幼虫を飼育していて
「いつ孵化するんだろうなー?」
なんて観察。
やがて幼虫から芽が出てきたら私なら驚いてぶっ飛びます(笑)

自然って奥深いですねー。全然知りませんでした。ほんと神秘的ですね。
Posted by norinori at 2007年08月19日 23:25
★norinori さん★
もしも、これが栽培できたら・・・すごいですよ!中国などでは、栽培も成功しているようですが、需要がはるかに多いので、別の意味でぶっ飛びます(^^
Posted by ユウ at 2007年08月20日 09:50
久々に「冬虫夏草」を聞きました(^ー^* )
余談ですが、僕は小学校の頃に「ミスター味っ子」というマンガを持っていて、それを何回も読み返してたんです。

その中に冬虫夏草を使った幻の中華スープを作るってのがあって、今でもあの死んだ虫の頭から生えていた冬虫夏草が印象的でした。

絶対コレ美味しくないんだろうって。
子供の時に思ってました。

奇跡の薬とまで言われているのですね~
見つけたらすごくラッキーですよね…
っていうか、限られた場所にしか生えていないか。
Posted by lilt at 2007年08月20日 15:47
★lilt さん★
その漫画なら、覚えてます!
覚えてる・・・というより・・・うろ覚えですが(笑) あの漫画に、コレが出てきましたか?! 僕は処理方法が全くわからなかったため、発見したものを結局ダメにしてしまいました。
どんな味なんでしょうね(笑)
Posted by ユウ at 2007年08月20日 22:00
冬虫夏草、そういえば昔、白戸三平の漫画『真田剣流』にもでてきましたよ。

あんまり古いので誰も見たことないかも。笑)
Posted by ゆっちゃん at 2007年08月21日 11:07
★ゆっちゃん さん★
白戸三平?!なつかしーですね!カムイ伝、外伝などは知ってますが・・・真田剣流・・・知りません(^^;; いえ、別に若ぶってるわけではありませんです(笑)
真田といえば、上州沼田・・・やはり忍系の物語とみた!面白そうですね。
Posted by ユウ at 2007年08月21日 23:10
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