2007年11月03日
風雪の中で聴いた北欧の旋律
引越しの荷造りのときでした。納戸の隅に黄色に変色したボロボロの段ボール箱を見つけました。ガムテープを無造作にはがした無数の跡が皮をはがれたようになっています。
何が入っているのか、いつしまいこんだのかさえ判明できぬそれを開けて見るとシミでヨレヨレになった手帳がどっさりと出てきました。そのうちの一冊を手にとり目を通してみると、ずいぶん前の山行記録。
ザイルで身体を岩に固定し、岸壁に半ば吊り下がるようにして一夜を明かした時のものや激しい雨の登山、山スキーの際に雪洞を設えてその中の青い世界での感想や、ハイキング、沢登り・・・それらの記録や感想です。読み進むうちに、ほとんど忘れかけていた記憶が鮮明に蘇ってきました。
その中に記録というより散文のような体裁のものを発見したため、それをここにご紹介します・・・
何が入っているのか、いつしまいこんだのかさえ判明できぬそれを開けて見るとシミでヨレヨレになった手帳がどっさりと出てきました。そのうちの一冊を手にとり目を通してみると、ずいぶん前の山行記録。
ザイルで身体を岩に固定し、岸壁に半ば吊り下がるようにして一夜を明かした時のものや激しい雨の登山、山スキーの際に雪洞を設えてその中の青い世界での感想や、ハイキング、沢登り・・・それらの記録や感想です。読み進むうちに、ほとんど忘れかけていた記憶が鮮明に蘇ってきました。
その中に記録というより散文のような体裁のものを発見したため、それをここにご紹介します・・・
【以下、山行記録手帳より抜粋】
メンバー:2名
風雪に行動ができず、テントに閉ざされて三日目。不安といらだちで気持ちが重くなる。昨日からは口数も少なくウィスキーをちびちび飲んでシュラフにくるまっている
夜、気圧放送が終わっても短波を聴き続ける。ラジオをシュラフの中に入れてボリュームをあげる。こうして気を紛らわせずにいられない。ダイヤルを回していると雑音の中に音が聞こえた
耳をこらすと、ラジオの旋律はピアノ協奏曲のようだ。シュラフの中で胸にのせたラジオからは拍手に続き、再び何かが始まるその緊張をはらんだ静寂
すぐに、とどろくような雷にも似た太鼓のうねりでドラマチックに幕を開け、その胎動を受けてかろやかにピアノが力強くオーケストラを導く
しばらく、哀愁を含んだ主題が展開したあと陽光にきらめくダイヤモンドダストのようにキラキラ輝く美しい旋律をピアノが奏でる。そして訪れる一瞬の静けさ
大きく 小さく やわらかく 優しく 森の奥に眠る たとえば 奥又白の鏡のような水面を刻むさざなみのごときピアノにフルートとホルンが風に揺れる木々のようにこたえる
やがてオーケストラは千年の眠りからさめた湖の女王の気高さを持ったピアノのカデンツァに主導をゆずり その後 夜の静けさが支配すると 誰一人いない森を月光が照らすなか、次の楽章のアダージョが息吹を始めた
そのあまりにも、あまりにも美しい旋律に胸が熱くなった。
僕ら二人がじっとイモムシのように耐え続けるテントのたった一枚の布を隔てて、外に広がるのは死を予感させる風雪の世界だ
雪面に上から谷から絶え間なく風が吹きおろし吹あげるたびに雪煙が荒れ狂いテントがはためく。シュラフから出ている目と額にテント内に凍りついた息が粉のように襲いかかってくる
僕らのほか だれひとりいない 高山の風雪の中。その中に張られた あまりにもちっぽけなテントの中には 胸に迫るほどの美しい旋律があふれている
すべてが氷と雪に閉ざされた風雪の雪山で、この旋律の持つあたたかさと情熱に胸をあつくする者がいようなど誰が想像できようか
この散文に続けてメニューの献立と食料の残りが記録され、2日後に「つづく」という表記で散文の続編が以下のように書かれていた。
この時に流れていた曲は帰宅後に調べたようで、最後に注釈のようにして「グリーグのピアノ協奏曲 イ短調 作品16」と走り書きされていた。しかし、僕のクラシックのコレクションにグリーグは別の作品がひとつあるだけ。ということは、この曲は当時の山行のとき以来、聴いていないのかもしれません(^^;;
いったいどんな曲なんでしょうね・・・もういちどじっくりと聴いてみたい気分です(笑)
ClubNatureメインはこちら
メンバー:2名
風雪に行動ができず、テントに閉ざされて三日目。不安といらだちで気持ちが重くなる。昨日からは口数も少なくウィスキーをちびちび飲んでシュラフにくるまっている
夜、気圧放送が終わっても短波を聴き続ける。ラジオをシュラフの中に入れてボリュームをあげる。こうして気を紛らわせずにいられない。ダイヤルを回していると雑音の中に音が聞こえた
耳をこらすと、ラジオの旋律はピアノ協奏曲のようだ。シュラフの中で胸にのせたラジオからは拍手に続き、再び何かが始まるその緊張をはらんだ静寂
すぐに、とどろくような雷にも似た太鼓のうねりでドラマチックに幕を開け、その胎動を受けてかろやかにピアノが力強くオーケストラを導く
しばらく、哀愁を含んだ主題が展開したあと陽光にきらめくダイヤモンドダストのようにキラキラ輝く美しい旋律をピアノが奏でる。そして訪れる一瞬の静けさ
大きく 小さく やわらかく 優しく 森の奥に眠る たとえば 奥又白の鏡のような水面を刻むさざなみのごときピアノにフルートとホルンが風に揺れる木々のようにこたえる
やがてオーケストラは千年の眠りからさめた湖の女王の気高さを持ったピアノのカデンツァに主導をゆずり その後 夜の静けさが支配すると 誰一人いない森を月光が照らすなか、次の楽章のアダージョが息吹を始めた
そのあまりにも、あまりにも美しい旋律に胸が熱くなった。
僕ら二人がじっとイモムシのように耐え続けるテントのたった一枚の布を隔てて、外に広がるのは死を予感させる風雪の世界だ
雪面に上から谷から絶え間なく風が吹きおろし吹あげるたびに雪煙が荒れ狂いテントがはためく。シュラフから出ている目と額にテント内に凍りついた息が粉のように襲いかかってくる
僕らのほか だれひとりいない 高山の風雪の中。その中に張られた あまりにもちっぽけなテントの中には 胸に迫るほどの美しい旋律があふれている
すべてが氷と雪に閉ざされた風雪の雪山で、この旋律の持つあたたかさと情熱に胸をあつくする者がいようなど誰が想像できようか
■
この散文に続けてメニューの献立と食料の残りが記録され、2日後に「つづく」という表記で散文の続編が以下のように書かれていた。
風雪は、その後丸二日続き、翌日晴れた。
1990年冬 風雪の五竜にて
この時に流れていた曲は帰宅後に調べたようで、最後に注釈のようにして「グリーグのピアノ協奏曲 イ短調 作品16」と走り書きされていた。しかし、僕のクラシックのコレクションにグリーグは別の作品がひとつあるだけ。ということは、この曲は当時の山行のとき以来、聴いていないのかもしれません(^^;;
いったいどんな曲なんでしょうね・・・もういちどじっくりと聴いてみたい気分です(笑)
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Posted by ユウ_zetterlund at 01:01│Comments(8)
│【アウトドア遊び】
この記事へのコメント
恐いですね・・・雪山・・・風雪・・・
私には想像出来ません・・・体験したくありません!
このクラッシク曲・・・存じませんが・・
是非、探して改めて聞いてみて下さい!
その時の事・・もっと鮮明に蘇りそうですね・・
思い出の曲? でも恐ろしい体験ですね・・・
私には想像出来ません・・・体験したくありません!
このクラッシク曲・・・存じませんが・・
是非、探して改めて聞いてみて下さい!
その時の事・・もっと鮮明に蘇りそうですね・・
思い出の曲? でも恐ろしい体験ですね・・・
Posted by チャイ at 2007年11月03日 06:26
雪山は全く無縁の私ですが、その時の
情景が浮かぶようでした。
極限状態で妙なる調べのような
格調高い散文を書かれるユウさん、
さすがです!
情景が浮かぶようでした。
極限状態で妙なる調べのような
格調高い散文を書かれるユウさん、
さすがです!
Posted by kimatsu at 2007年11月03日 21:07
★チャイさん
怖さはなぜか感じたことはないのですが・・・この時のことを思い出すと、なんだか夢を見ているような、そんな不思議な気持ちになります(^^;
怖さはなぜか感じたことはないのですが・・・この時のことを思い出すと、なんだか夢を見ているような、そんな不思議な気持ちになります(^^;
Posted by ユウ at 2007年11月04日 20:44
★kimatsu さん
二十代の頃までは、夏山、秋山より冬山がいちばん大好きだったのですが・・・いまでは、冬以外の季節が気持ちよく思える、今日この頃(^^;; もう年なんでしょうかねぇ~(笑)
二十代の頃までは、夏山、秋山より冬山がいちばん大好きだったのですが・・・いまでは、冬以外の季節が気持ちよく思える、今日この頃(^^;; もう年なんでしょうかねぇ~(笑)
Posted by ユウ at 2007年11月04日 20:47
こんにちわぁ~♪
ユウさんの山行記録手帳…見てみたい(^ー^* )
どんな事が書いてあるのか…ドキドキしてきますね~♪
僕も今月低山をガイドさん付きで登ってきます。
とても楽しみなんですが、いざガイドさん無しで登る時は間違いなく春・夏・秋でしょうね。
冬山はベテランの方しか行けないと思ってます。怖いですもん。
ユウさんの山行記録手帳…見てみたい(^ー^* )
どんな事が書いてあるのか…ドキドキしてきますね~♪
僕も今月低山をガイドさん付きで登ってきます。
とても楽しみなんですが、いざガイドさん無しで登る時は間違いなく春・夏・秋でしょうね。
冬山はベテランの方しか行けないと思ってます。怖いですもん。
Posted by lilt at 2007年11月05日 15:23
こんばんわ
ユウさんって何者?
この山行記録って素人目には結構やばそうな状況に見えますが
ピアノ協奏曲だのオーケストラだのものすごいアンマッチで、逆に寒気がします。
お久しぶりでした。
ユウさんって何者?
この山行記録って素人目には結構やばそうな状況に見えますが
ピアノ協奏曲だのオーケストラだのものすごいアンマッチで、逆に寒気がします。
お久しぶりでした。
Posted by なむたーん at 2007年11月07日 23:18
★ liltさん★
ほかには・・・ですね、女子高の山岳部とテント場でいっしょになって、そこからはじまるばかばかしいお話とか(笑) いろんなことが書いてありました(^^;;
ほかには・・・ですね、女子高の山岳部とテント場でいっしょになって、そこからはじまるばかばかしいお話とか(笑) いろんなことが書いてありました(^^;;
Posted by ユウ at 2007年11月14日 09:45
★なむたーんさん★
このとき、あともう少しで捜索隊出動しちゃうところでした。風雪による停滞予備の4日間を予定に入れていなかったら、遭難騒ぎでたいへんでした(^^;;
このとき、あともう少しで捜索隊出動しちゃうところでした。風雪による停滞予備の4日間を予定に入れていなかったら、遭難騒ぎでたいへんでした(^^;;
Posted by ユウ at 2007年11月14日 09:49
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