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2008年07月16日

老人のソロキャンパー

老人のソロキャンパー

苗場山を登った帰りにちょっと遠回りして休暇村磐梯高原のキャンプ場を利用したときのこと。テントの設営を終え散策していると、ふらふらと一台の汚れた軽ワゴンが駐車場に入ってきた。あっちに行ったり、こっちに来たりとなんだかとても頼りない運転をしている。やがてエンジンが止まった。しばらくすると車窓からプカリと煙。どうやらタバコを楽しんでいるようだった。

そして、ようやくのこと。姿を現したのは80歳に手が届くかと思える小柄な老人だった。彼は一匹の雑種の老犬を助手席から下し、駐車場横の雑草がいっぱいの草地サイトを丹念に歩き回っている。そこは、ほとんどテントが張られることのない、人気のないサイトだった。小さな軽にひとりの老人・・・キャンパーには見えない。

が、意外なことに、老人は雑草がぼうぼうの草地の真ん中で立ち止まると、そそくさと車に戻り、その場所に白い小さな使い込んだ軽自動車を乗り入れ、なにやらゴソゴソ。なんと後席からテントやテーブルを下ろし始めたのだ。

“あんなお年寄りが、ひとりでキャンプ?”

老人は、小柄な自身同様の、どこのメーカーのものともわからぬような、とても小さなテントを張り終えた。次に、ホームセンターなどで売っている、テーブルとイスが一体になったブルーのテーブル&チェアをセッティングした。テーブルの上には家庭用ガスコンロが1台とコッヘルが1セット。主要装備はたったこれだけだった。

テーブルに置かれたコッヘルは、一人用にしては大きめだった。老人はチェアに座ると湯を沸かし始めた。テーブルの上にはコーヒーカップがふたつ。あれ?とこのとき思った。老人のソロキャンプということで、花壇の縁石に腰掛け遠めに見ていたのだけれど、後からだれかくるのかな、と興味をそそられた。

僕は犬連れだったので、犬を操り老人の方に近づいた。サイト横を通りながら「こんにちは」とお決まりの挨拶。遠くの森をじっと眺めていた老人は、ちらりと僕の方を向き、ペコリと顔を下げると誰も座っていないテーブルの向かいに視線を投げた。

「気持ちのいいキャンプ場ですね」

と言うと、何度かうなずいた後に間をおいて「ここはよい場所だよ」と犬の頭を撫でながらつぶやいた。そこで、なんとなく「いつもお1人で?」と聞いたのをきっかけに、ふたことみことばかり話をした。

子供のできなかった老人は、定年後に軽自動車を購入し妻と犬とで方々をキャンプして回りはじめたのだという。「ここはね、家内が大好きなキャンプ場だったものでね」と実に幸せそうな笑顔。その奥さんはどうしたのか気になったところ、「昨年の冬にね、ぼくひとりになっちゃったものだからね・・・」と、老人は犬の頭を撫でた。ここで僕らの会話は途切れて終わった。

きっとこのご老人は、ずーっと働き詰めの人生で、旅行すら行くことはできなかったのかもしれない。そして定年を期に、楽しい思いをさせてあげられなかった妻のために、小さな自動車とちっぽけなテント、そして安いテーブルセットを購入し、二人でキャンプをして回っていたのだろう。長年労苦を共にしてきたその妻も半年前の冬に亡き人となり、老人はひとりきり。

“かすがい”である子供がいない分、きっとふたりで、お互いを労わり信頼しあい、ずーっと生きてきたのだろう。その大切な妻を失ったこの老人の悲しさは、果たしていかばかりのものであったか・・・心の痛みは、おそらく僕などには想像もできないほど大きかったに違いない。

こんなちっぽけなテントとテーブルであっても、ふたりで作った思い出は人生の宝物なのだ。あちこち痛んだテントを見れば、ほんとうに方々を二人で巡り歩いたろうことが想像できる。穴や傷は丹念に縫われており、それは今は亡き妻がキャンプの思い出話に笑顔しながら縫ったものであろうか。

だからこそ、今はなき妻の笑みを、在りし日のようにテーブルの向こう側に見るために、この老人はキャンプをしているのかもしれない。僕は無言で頭を下げると、その場を後にした。老人の姿は、沈みつつある夕日の中に寂寞として、悲しげにかすんで見えた。


この休暇村磐梯高原キャンプ場は、僕も大好きなキャンプ場です。秋の平日、ここでのんびり過すのが気持ちよくて、毎年訪れています。そして行く度に、この老人が小さなテントを設営していた駐車場左側の手前の草地に目がいってしまい、泣き出したいような、そんな無常な気持ちを覚えてしまいます


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この記事へのコメント
目頭が熱くなりました。
途中から字がボヤけて見えるほど・・・

子供がいない我が家…いつかどちらかが他界してしまうでしょう。
もし私が先に逝ってしまったら、嫁は思い出のキャンプ場に行ってくれるかなぁ〜と、考えてしまいました。。。
Posted by ジープ乗り at 2008年07月16日 11:18
泣けました!

いつか私か妻残された方が、より多くの想い出をたどれるように、一つの道具を大事に使わねば、と物欲にまみれた我が身を大いに反省いたしました。
Posted by kimatsu at 2008年07月16日 11:59
人生模様ですなー キャンプも社会の縮図 さまざまな人生 様々な気持ちを抱えた方々がいろんな思いでキャンプしておられるのでしょうな 小生も ひたれる想い出を山ほど作りたいものです(^J^)
Posted by 風@携帯 at 2008年07月16日 16:02
独り・・・残されるのは辛いですね・・
出来れば先に逝ければ良いのですが・・
Posted by チャイ at 2008年07月16日 17:42
実際にどちらが望んで楽しんでいたキャンプ行だったのか知る由もないですが、きっと望んだのはおじいさんだったんだろうなぁ。。。
だとしたら、相手の想い出を辿る余生でなく、自分の楽しみに相手との想い出を埋め込めたんだから幸せだったでしょうね。
共に人生を歩む為に不可欠な「思いやり合う」ってことのお手本のようなお話です。
この話でイチバン素敵なのは、おじいさんと共に行動したおばあさんの愛ですね。モエ
Posted by いのうえいのうえ at 2008年07月16日 19:13
★ジープ乗り さん★
想い出の場所に行ってくれると、うれしいですね~。我が家の場合、僕のアウトドアグッズは全て処分されそうです(^^;;
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月16日 20:51
★kimatsu さん★
L字に裂けたような布地が、ほんとうにきれいに縫われていました。ほかにも数箇所。当て布の素材がキャンバスのような部分もあって、これはきっとアウトドアに詳しくない人が縫ったんだな・・・と。

僕の道具で、いちばん古いのは親を経由して祖父から受け継いだ、昭和初期に海外で購入したという名匠シモンの手作りのピッケルです。

時代遅れのデザインに、いちどヤフオクに出したことがあって、みるみる価格がつりあがり、はじめてその価値に気付き、友人に落札してもらったことがあります(^^;;

今では、大切に保存しています♪
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月16日 20:57
★風さん★
夫婦は親子と違って、血がつながっていないですからね。
なかよく連れ添って、素敵な想い出を限られた時間の中で作れたらいいですよね♪
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月16日 21:00
★チャイさん★
女性は男性より長生きしますし・・・その点は確率的に考えれば・・・・(^^;;
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月16日 21:10
★いのうえ さん★
そういう考え方、ありますね。いずれにしろ、いい関係のご夫婦だった、ということでしょうね。今年もお盆の翌週あたり、磐梯に行ってみようかな・・・
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月16日 21:12
キャンプと一言で言ってもみなさんドラマがあるんですね。
こういった出会いがあるのもキャンプの魅力ですよね。
Posted by ダミアン at 2008年07月16日 21:13
★ダミアンさん★
出会い・・・ほんとうに多いですよね。
これに似たようなこともいくつかあって、道志で知り合ったその方は、昨年、入院していたようで・・・もちろん独り暮らしの初老の方でした。

最後に、沢山のキャンプ道具が宅急便で自宅に送られてきて、電話をても出ず、手紙で入院を知りました・・・

ドラマ、ほんとうにたくさんあります。
Posted by ユウ_zetterlundユウ_zetterlund at 2008年07月16日 22:18
行ったことあるキャンプ場だけに

より リアルに想像できました・・・

軽装のキャンプの中にたくさんの思い出が詰まったキャンプなんでしょうね^^
Posted by simojisimoji at 2008年07月17日 00:32
良いお話です。
男はたいがい自分が先に行くと思ってますから、
私なんかは残されるとたぶん戸惑ってしまいますね。
軽ワゴンで行くキャンプなら、ホームセンター当たりで売っているテントに家庭用コンロで十分間に合いますね。

今のところ私たちは、キャンプする時間的余裕が無いな。
Posted by 恵那爺 at 2008年07月17日 06:31
★simojiさん★
そうでしたね。ここはsimojiさんのホームエリアですもんね。

僕も年に何度か、ここが好きで、向かってしまいます。この休暇村か五色沼を愛用してます♪

東北には素晴らしい山にキャンプ場がたくさんありますよね♪
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月17日 09:23
★恵那爺 さん★
僕も、同じく、先に行く~~~と思っちゃってますし。あとに1人残されるなんて、考えたことないです(^^;;

普通のオートキャンプであれば、ホームセンターのテントで十分です。山岳会の仲間は、前泊日帰りテントにノンブランドの3千円ほどのドームを使ってました。彼に、ジュニアガスバーナーはいいぞー、と見せられ、それまでのプリムス一辺倒スタイルから、家庭用ガスボンベを使うジュニアガスバーナー路線へと踏み入れました(笑)

恵那爺さん、お忙しそうですよね。こんどは海外ですね!
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月17日 09:28
このオジイサン、その後、お元気なのでしょうか。

とても気がかりですね。みな楽しそうに満喫してるように見えるけど、心の中はさまざまなのですね。

わたしも、悩んだときにソロででかけたりするので、他人事とは思えないです
Posted by fumi at 2008年07月19日 02:49
★fumi さん★
なるほど・・・それがあのデンジャラスなソロ記事につながってるわけなんですね。

残念ながら、この方とはその後一度もお会いしていません。あの老犬と寄り添う姿・・・今も昨日のことのように思い出します。
Posted by ユウ_zetterlund at 2008年07月19日 09:02
寂しい話しでありますが、僕はこの爺さんに自分を見た気がしました。
と言うより幸せな爺さんだなあ〜と感じた。きっと婆さんとの思い出も有るけど、お前と一緒に巡ったキャンプサイトでこうしてキャンプが出来るよ。お前が居て楽しかった。が、もう少し僕独りで回ってお前に見せてやろうか。ほれ、こんなに気持ちいいぞ〜。
僕なら自分のスタイルを楽しみ、失ったパートを埋ずにブランクとしておいて楽しみを探すかなあ。
Posted by ノブ at 2008年08月03日 10:37
★ノブさん★
夜、気になって、見に行ったのですが、
焚き火を前に、カップでウイスキーの水割りか、焼酎か・・・何かを気持ちよさそうに、飲んでいました。

幸せそうでした♪
Posted by ユウ_zetterlundユウ_zetterlund at 2008年08月04日 10:14
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